土に生きる夫婦野菜

印刷用ページを表示する掲載日:2017年3月10日

鈴木耕治&惠子(すずきこうじ・けいこ)

めおとまんざい。この夫婦と話していると、そんな言葉が浮かぶ。朝に目覚め、日暮れとともに作業を終える。ゆえに、日々を楽しく生きる才に長けているのだろう。そんな2人が出会ったのは、それぞれが学んだ福島県立農業短期大学校(現・福島県農業総合センター農業短期大学校)のOBを介して。農業を生業とする鈴木耕治と、農業に興味があった惠子。2人は「地場野菜」という言葉が語られる前から、地域で作られていた野菜を愛し、作り続けている。

鈴木さん夫婦の画像

恵まれた土壌に育つ長ごぼう、長にんじん。
エリアNo.1の伝統野菜ここにあり。

「ごんぼもにんじんもここでは長いのが当たり前。勝手にすくすく育つのさぁ」と笑う耕治。こことは、鈴木夫妻の野菜畑、果樹畑がある川内地区だ。二人はごぼう、にんじん、長芋、里芋を手がける。中でもごぼうとにんじんは驚くほどの長さを誇り、長ごぼう、長にんじんと呼ばれている。

長にんじんと長ごぼうの画像
90cm~1mに育つ長ごぼう、葉を入れると1mを優に超える長にんじん。どちらも旨味が濃く、野菜本来の甘味がある。あまりの長さに食べきれないと躊躇する人もいるそうだが、そんな心配は御無用。もっと買っておけば、と後悔するおいしさだ。

「この辺りで昔からつくられている在来品種です。土の栄養がいいからどんどん長くなっちゃう」と惠子。阿武隈川沿いに広がる畑の土壌は上質だ。栄養豊富でやわらかいため、根菜類がおいしく育つ。
「実は阿武隈川沿いにはごぼうの産地がベルト状にあります。その中でも、一番おいしいのは川内産というのが共通認識。上質な土壌はかつて暴れ川の異名をとっていた阿武隈川の氾濫がもたらした恵みです。だから地名が川内でしょう」。

畑仕事をする鈴木さん夫婦の画像

ここに一つ面白いエピソードがある。
鈴木夫妻は農家の有志で立ち上げた直売所に納めているが、「鈴木さんのごぼうが並ぶと売れなくなるから」と、販売中のごぼうを撤収してしまう農家もいる。鈴木さんの野菜は、それほど味自慢で知られている。

旨味の濃い野菜のおいしさは土壌に恵まれているからだけではない。きめ細かい土質の土壌は、簡単に掘り起こせないなど、実に農家泣かせな一面も持つ。便利な道具は使えず、新しい栽培法も適さない。昔ながらに手をかけてあげないとならないのである。

掘りたてのごぼうを持つ鈴木さん夫婦の画像

「人間の都合で種まきしたりすると、野菜にやり返されちゃうのよ。特ににんじんはデリケートで、花が咲いてしまったり、ちょっとでも追肥しすぎると割れてしまうしね」と、どこか愛おしそうに語る惠子は、町の食イベントに積極的に参加して、地場野菜のおいしさを広める料理名人でもある。

長ごぼうと長にんじんの料理の画像

「野菜をつくり続けているのは、食べたいという人が待っているから。おいしいといわれると、つい張り切っちゃうんだよなぁ」。伝統野菜ゆえに二人がかりで行なう作業も多い。息の合った鈴木夫妻が慈しむ野菜には、豊かな大地のおいしさが詰まっている。

農家だから知ってる! おいしい知恵。

ごぼう畑は放浪する

ごぼうは土の栄養をぎゅっと吸い込むため、連作障害が出てしまう。おいしいごぼうを育てるためには一度収穫した畑は、4年間休ませなければならない。そのため、鈴木夫妻のごぼう畑は毎年移動する。

農耕機の画像

川内ごぼうだからこそ!

川内地区のごぼうでつくるきんぴらは、白い。そう、塩のきんぴらだ。川内産の長ごぼうは、色が白く、その白を生かした塩きんぴらが主流。歯ごたえもよく、味が染みる塩きんぴらは、川内ならではの地域の味だ。

きんぴらごぼうの画像